朝日新聞デジタルのSOPHIA.com「上智大学の今を知る」。
今月の「学びの魅力」のコーナーに登場しています。
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「作り手の意図」をしっかり認識することが
メディア・リテラシーの習得につながる
碓井広義
文学部新聞学科 教授
メディアと上手に付き合うために
「今こうして行っている授業の様子を映像で伝えようと思えば、最低3つのシーンを撮ればいい」。
メディア論や映像制作が専門の私は、学生たちによくこんな話をします。
具体的には、まず講義をしている私のカット、次に教室全体、そして授業を受けている学生のカットです。ただ最後の学生のカット、ここに「真剣に聞いている学生」を入れるか「居眠りをしている学生」を入れるかで、観る人の印象はずいぶん変わるでしょう。
そんなのは当たり前だ、と言われてしまうかもしれません。しかし、実はここにテレビをはじめとするメディアの本質が潜んでいるのです。
仮に50人が授業を受けていたとして、そのうち居眠りをしていたのは1人だけかもしれません。それでも、そういう学生がいたことは事実。それを切り取ったシーンに嘘はありません。
つまり同じ出来事を素材にしても、“作り手の意図”によって、でき上がる映像はずいぶん変わってくる。やり方しだいでは、真逆のメッセージを持つ作品をつくることもできてしまうのです。
ますます多様化するメディアと上手に付き合っていくためには、そうした現実もしっかり知っておく必要がある。私は、そう考えています。
ゼロから番組をつくる「テレビ制作」
そんなメディア・リテラシーの習得に最適な科目の一つが「テレビ制作」です。
ここでは学生たちが、5〜6人のグループに分かれ、短くて3分、長くて15分ほどの番組を制作します。
決められたテーマに基づいて「企画」を立案し、それを他のグループにプレゼンテーションするのが最初のステップ。
次に、その企画内容を効果的に視聴者に伝えるには、どのような「構成」がいいかを練り上げていきます。何を、どんな映像で、どう見せるか、それが決まればいよいよ「撮影・収録」。
上智大学の「テレビセンター」には、スタジオやコントロールルーム、カメラ、音声機器など、小さな放送局レベルの設備、機器が揃っているので、学生たちは本格的な番組収録を体験することができるでしょう。
そして続いて行うのが「編集作業」。ここでは撮影した映像にナレーションや音楽なども載せていくわけですが、この作業を通じて学生たちはテレビ番組や映像作品というものが、「絵」と「音」によってつくられていることを改めて認識することになります。
例えば同じ風景でも、その説明の仕方やBGMしだいで、映像の持つ意味は変わってくる。まさに“作り手の意図”が、観る人の印象に大きな影響を与えることを体感するわけです。
このように、制作者側の立場になることを通じて、メディアを“読み解く力”を養うことができる。これが「テレビ制作」という科目の大きな魅力になっています。
メディア全体を見渡すことができる
政治、経済、科学、社会…。私たちは日々、さまざまな情報に触れ、知識を身につけていきますが、考えてみればその多くは何かしらのメディアを通じて得たものです。
その意味で、メディア・リテラシーは誰にとっても大切な能力といえるでしょう。
新聞学科には、私が専門とするテレビ以外にも、新聞論、ジャーナリズム論をはじめ、多彩な分野の専門家が在籍しており、メディア全体を見渡しながら、同時に興味のある分野を追究していける環境が整っています。
マスコミ志望の学生に限らず、「社会の本質を見抜く力をつけたい」、そんなふうに考える人にぜひ目指してほしいと思います。