産経WESTの連載コラム【甘辛テレビ】の中で、「花子とアン」に
ついて解説しています。
「マッサン」「花子とアン」、
意外な共通点とNHK制作陣の“秘密主義”
NHK連続テレビ小説が「花子とアン」から「マッサン」へバトンタッチされました。心配された視聴率も上々で、首脳陣もホッとしているようです。そんな中で明らかになったNHKのドラマ制作陣の意外な“秘密主義”について触れたいと思います。
「マッサン」ですが、9月29日の初回視聴率が関西地区は19・8%で、過去10年で最高を記録。その後も19・8%→21・6%→20・6%→19・4%→19・8%と好調に推移し、関東も初回21・8%→21・8%→21・8%→22・3%→20・6%→19・5%。両地区とも週間ランキング上位をほぼ独占しました。視聴率ばかりとお叱りを受けそうですが、制作のNHK大阪放送局首脳も「視聴者の方からさっそく高評価をいただいている。中身が濃く面白いと思う」と胸をなで下ろしています。
もっとも、主人公のマッサン夫妻(玉山鉄二さん、シャーロット・ケイト・フォックスさん)へのインタビュー依頼が、すでに今夏段階で新聞・雑誌・ウェブ媒体など30社を軽く超えるなど注目度は抜群。朝ドラ抜きでテレビ界は語れないという現状を目の当たりにしました。
■「スコットランド」つながり
ところで、これに先立って先月18日に大阪局で行われた両番組のバトンタッチセレモニーで意外な事実を知りました。
「マッサン」のモデルとなった“日本のウイスキーの父”竹鶴政孝氏の妻、リタさんがスコットランド人なら、「花子−」が翻訳した「赤毛のアン」のL・モンゴメリもスコットランド系カナダ人。しかも、主人公の2人は、明治末期から大正・昭和という同じ時代を生きたのです。恥ずかしながら、全く気づきませんでした。
それにしても、片や日本から外国を覗き、片や外国から日本を垣間見る。何とも見事な連係プレー…と考えそうですが、実はそうではありません。僕が驚いたのはここからです。「マッサン」の櫻井賢チーフプロデューサー(CP)が明かしてくれました。
■絶妙の連携プレーかと思いきや…「まったくの偶然でした」
「実は、NHK(の制作陣)は結構、秘密主義と言いますか…。私が『マッサン』の企画を持ち込んだとき、加賀田(透)先輩(CP)が『花子とアン』の企画を着々と進めていることを全く知りませんでした。しかも、互いの番組でバグパイプが流れるなんて」
以前、同局の編成幹部に「朝ドラで前後の作品でのつながりはあまり考慮していない」との話は聞いたことがありました。でも、まさか制作責任者から“秘密主義”という言葉で表現されるとは。この辺は、同じ社内で独自ダネを狙って化かし合う新聞記者と似ていますね。
加賀田CPも「(スコットランドつながりは)全くの偶然。逆に、発想とかどんな物語を作りたいかということについて、櫻井君と通じ合うものがあるのかなあと思いました」と振り返ります。
朝ドラは、昭和39年の「うず潮」から数えて、今回の「マッサン」ですでに91作目。ネタ枯れが心配される中、制作責任者は新しいものを狙っていろんな方向にアンテナを張り巡らせます。それが、昭和59年入局の加賀田、平成6年入局の櫻井という、新旧の敏腕プロデューサーが同じ「スコットランド=海外」に“鉱脈”を見いだしたのは、決して偶然だけで片付けられない気もします。
加賀田CPは、今回の朝ドラ初の外国人ヒロイン起用に「国際結婚は思いつかなかった。その手があったかぁ…との思いですね」と脱帽します。
■「王道」に「通俗性」加えたのが成功の要因
その「花子−」ですが、元テレビプロデューサーで上智大学の碓井広義教授(メディア論)は次のように総括しています。
「ドラマで実在の人物を描くのは難しい。しかも、花子にはエピソードが少なかった。ところが、世紀のスキャンダルといわれた白蓮事件がうまく機能した。不倫スキャンダルなど、これまで朝ドラがやることはなかった。それを照れずに上品に盛り込み、朝ドラを支える女性層をつかんだ。朝ドラの『王道』に『通俗性』を加えたのが成功の要因だと思う」
その伝でいけば、「マッサン」も間違いなく王道でしょう。竹鶴氏は関連書が多岐にわたり、エピソードも多そうです。初の外国人ヒロインにも注目です。ただ、それだけで押し切れるかどうか。いろんな意味で今後が楽しみです。(豊田昌継)
(産経WEST【甘辛テレビ】 2014.10.07)