週刊新潮で、日本テレビの「女子アナ内定取り消し騒動」についてコメントしましたが、その記事の全文が新潮社のWEBサイトにアップされました。
以下に転載しておきます。
たかが「ホステス歴」で女子アナ内定を取り消し
「日本テレビ」愚の骨頂
公共の電波を扱うテレビ局は何かとキレイ事を並べたがる。しかし今回の一件は、日テレの差別意識を満天下に知らしめた。ホステス歴が問題視されたミス東洋英和の「女子アナ内定取り消し騒動」である。日テレ基準では「職業に貴賤がある」のだ。
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〈【人権を尊重します】
(1)差別的扱いの禁止
私たちは、一人ひとりの人格や個性を尊重し、性別、信条、身体的条件などによる差別や嫌がらせを、けっして行いません〉
このご大層な文言は、日本テレビグループが宣言し、すべての役員や社員に遵守を求めた「日本テレビ・コンプライアンス憲章」の一節である。だが、以下にお伝えするのは、この理念とはおよそかけ離れた騒動だ。本音と建前が織り成すコントラストが、これほど凄烈な組織もそうはあるまい。
「昨年9月12日、日本テレビから、2015年度採用の女子アナウンサーとして内定を受けた女子大生にトラブルが生じました。彼女は今年3月、自分が過去に短期間、母親の知人の関係者が経営する銀座のクラブでアルバイトをしていたことを局側に告げた。そうしたところ、問題となり、その翌月、人事部長から内定取り消しを通告されたのです」(日テレ関係者)
悲嘆に暮れる渦中の女性は、東洋英和女学院大学4年生の笹崎里菜さん(22)。彼女は、2011年の「ミス東洋英和」の栄冠に輝いた美貌の持ち主だ。ファッション誌『JJ』の読者モデルも務めていたという。そんな彼女の夢は女子アナになること。念願叶い、競争率1000倍と言われる狭き門を突破した彼女は、来年、日テレの女子アナになるはずだった。
しかし哀れ、その約定は、倍率ではなく日テレの度量の狭さによって、反故(ほご)にされてしまったのである。その理由はホステスのバイト歴とされたが、これは自ら掲げるコンプライアンスに抵触しないのか。
納得のいかない笹崎さんはこの10月、日テレに入社を認めてもらうべく、「労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する」ための訴訟を東京地裁に起こしたのである。
今回の一件、そもそも『週刊現代』(11月22日号)の記事で明らかとなり、目下、ネットを中心に議論を呼んでいるが、今時、水商売のバイトに勤しむ女子大生など珍しくもない。たかがホステス歴くらいで、日テレは何が問題だと大騒ぎしたのか。
■「夏目三久」を引き合いに…
笹崎さんが日テレの「アナウンスフォーラム」というセミナーに参加したのは、大学3年生だった昨年9月のこと。訴状で、彼女は大要、こう説明している。
〈セミナー参加後、被告(日テレ)から、“上級セミナーに参加して欲しい”と要請された。その第2回セミナーにおいて、「自己紹介シート」と題されたA3用紙1枚を渡され、提出するよう求められた。
「自己紹介シート」には、学歴や職歴情報を記載する欄が設けられていたが、「すべてのアルバイト歴を記載せよ」との注意書きはなかった。原告は、ドラッグストアや居酒屋でのバイト歴を記載したが、美容室やクラブでのバイト歴は記載しなかった。
その後の9月11日、被告より“明日、本試験を受けて欲しい”との電話があった。原告は被告本社に赴き、健康診断を受け、役員面接を受けた。面接では、「自己紹介シート」を基に質疑応答がなされたが、“その他に何かアルバイトをしていたか”等の質問は一切なされなかった〉
役員面接後、彼女は漢字テストを受けさせられたという。漢字の読みの問題は驚くほどやさしかったが、書き取りの問題は難しいものだった。
〈採点結果に落胆していると、人事担当者から、“漢字の読みの問題の答えを下から読んでご覧”と促された。6つの小間の答えを下から読むと、『あな うん す ぶもん ない てい』。原告は緊張していたこともあり、混乱していると、“これ読んで”と、1枚の紙を渡された。
文書には、『日本テレビは、漢字が苦手ではあるが、負けず嫌いで素直な性格に期待し、笹崎里菜さんを2015年度入社のアナウンサーとして内定することにします』と記載されていた。その後、被告人事局長名義の「採用内定通知書」と題する文書が原告に手渡された〉
漢字テストは酒落た演出のつもりだったらしい。翌日から、笹崎さんは日テレの研修に参加。人事担当者からは「現在、ネットなどで皆さんの写真が掲載されているようなページがあったら、働きかけて、全部消して欲しい」という要請もあった。日テレ局員の話。
「5年前、人気局アナだった夏目三久が、写真週刊誌『フラッシュ』に彼氏とのツーショット写真を報じられました。この際、彼女が満面の笑みでコンドームの箱を手にしていた写真まで出され、大騒ぎになった。結局、夏目は日テレを退社するハメに。この騒動があったので、うちはネットなどへの女子アナの写真の露出を過剰に警戒しているのです」
笹崎さんは、モデルのアルバイトをしていたため、バイト先に写真使用を中止してほしいと交渉。しかし断られ、そのままこの件は失念していたという。その後、今年3月初旬、内定者全員の顔合わせ会が催された。
この場で彼女は、日テレがアナウンサー内定者の肖像権の管理にも厳格であることを知り、モデル会社の写真掲載を放置していたことを思い出した。そこで人事担当者に相談。この際、過去に銀座のクラブで集合写真を撮った記憶が蘇ったという。
〈そのため、人事担当者に“以前、母の知人の関係者が経営する銀座の小さなクラブでお手伝いを頼まれ、短期間、バイトをしたことがありますが、そういうものは大丈夫でしょうか”と尋ねた。翌日、別の人事担当者にバイトの状況を細かく説明。その後、彼からは“今回のことは大丈夫ということが分かった。人事としてもあなたを守ります”と告げられた〉
しかし、その5日後、事態は暗転する。同じ人事担当者から電話で呼び出され、こう言われたという。
「この問題を上に上げたら、問題になってしまった。明日、人事部長から話がある。ホステスのバイトのことがバレたら、週刊誌に好きに書かれる。耐えられるか。父親も仕事を失うかもしれない」
笹崎さんは頭の中が真っ白になりながらも、
「辞める気はありません」
と答える。翌日、社内で彼女は人事部長と対峙していた。部長はこう口火を切った。
「元ホステスが女子アナをやっていると週刊誌に書かれてしまう。笹崎自身の問題だ。耐えられるのか。夏目三久の時はいろいろと書かれて、本人が傷つき、退社することになってしまった。笹崎は大丈夫か」
これに対し、笹崎さんは、
「耐えます。母も応援してくれています」
と返答したが、部長は険しい表情を崩さなかった。
彼らは週刊誌の存在を持ち出し、彼女自身のためだと言って、内定辞退を迫ったわけだ。そして4月2日、彼女は人事部長に再度、呼び出され、こう宣告された。
「残念だが、笹崎を採用することは日テレとしてはできない。傷がついたアナウンサーを使える番組はないという判断だ。内定辞退という判断もある。取り消しよりは騒がれずに済む」
取り消しの理由について、部長は、誓約書の一項目である『申告に虚偽の内容があった場合』に該当すると説明したという。それでも夢を諦め切れない笹崎さんは、人事部長宛に入社を切望する手紙をしたためた。それに対し、人事局長から5月2日付で「ご連絡」という書簡が届く。そこには信じ難い言葉が並んでいた。
〈アナウンサーには極めて高度の清廉性が求められます。他方で、銀座のクラブでホステスとして就労していた貴殿の経歴は、アナウンサーに求められる清廉性に相応しくないものであり、仮にこの事実が公になれば、アナウンサーとしての業務付与や配置に著しい支障が生ずることは明らかです〉
社長以下、日テレのお偉方は、ホステスが接客するクラブなどへは、「清廉ではない」として足を踏み入れることはないのだろう。
■女子アナは清廉か!?
〈平成26年5月2日、「ご連絡」との書状、悲しい思いを抱きつつ読ませていただきました。(中略)何卒ご理解賜りたくお願い申し上げます〉
彼女は人事局長に再度、手紙を宛てたが、同月28日付で採用内定取消通知書が送付されてきた。
裁判沙汰に発展したこの問題、今後、どう展開するのか。特定社会保険労務士の杉山秀文氏はこう見る。
「内定取り消しは、正当な合理的理由がなければできません。例えば、会社側が営業経験者であることや専門の資格を求め、応募者がそれらを『有り』としながら、実際には全く経験がなかったり、資格を持っていなかったことが判明した場合などは合理的な理由となり得ます。翻って、今回のホステス歴の無申告ですが、これは正当な事由どころか、ほとんど言いがかりに近い。日テレは法廷で、ホステス歴が職務上、支障をきたすことを証明しなければいけません。ホステス出身者がダメというなら、最初から採用条件に明記すべきです」
そもそもアナウンサーとは清廉な存在なのか。松坂大輔投手や巨人の高橋由伸選手と結婚した、同局出身の柴田倫世アナや小野寺麻衣アナのように、富と名声を併せ持つプロ野球選手との色恋沙汰に励む女子アナは数多いる。それを世俗まみれと言わずして何と言おう。
「片腹痛い言い分です。例えば、田丸美寿々は妻帯者の男性と不倫の末、結婚したし、近藤サトも歌舞伎俳優の坂東三津五郎と略奪愛で一緒になった。これのどこが清廉なのでしょうか」(芸能評論家の肥留間正明氏)
メディア論が専門の碓井広義・上智大学教授も、
「日テレの主張は、ホステスが“清廉さを欠く”職業と明言するもの。“職業に貴賤があると考えている”と思われても仕方がない」
今回の問題について、日テレに見解を尋ねると、
「民事裁判で係争中の事案であり、当社の主張は裁判を通じて明らかにします」
報道機関でありながら、木で鼻を括(くく)ったようなこの対応。ならばトップの大久保好男社長はどういう見解か、自宅を訪ねた。すると、夫人がインターホン越しに、
「大久保は風邪で体調不良なので、お引取り下さい」
と言うのみで、社長本人は頬かむり。ちなみに彼は読売新聞の元記者だ。かつて自身は夜討ち朝駆け、取材対象者に対応を求めてきた。それがいざ取材される側になると、この有り様で、ご都合主義も甚だしい。当の笹崎さんはこう語った。
「皆さまをお騒がせすることになり、本当に申し訳なく思っております。私の願いが届きますことをただただ祈っております」
仮に勝訴して、入社できたとしても、独善的な組織で色物扱いされる苦労は想像に難くない。退くも進むも、彼女には茨の道が続く。
(週刊新潮 2014年11月20日号)
・・・・あらためて今後の予想を言えば、たとえ笹崎さんが裁判に勝って、日テレに入社できたとしても、アナウンス部に配属されるとは限りません。
一旦入社させてしまえば、社員に関する人事権は基本的に会社が持つわけですから。
また裁判で負けた場合、来年他の局を受け直しても、こういう形で騒動になった以上、どの局も受け入れることは難しいでしょう。
またフリーアナとして事務所に所属しようと思っても、そういう会社はクライアントであるテレビ局に配慮するわけで、笹崎さんと契約するところがあるかどうか。
新潮の記事のように、「退くも進むも、彼女には茨の道」であることは間違いありません。