テレビ番組もそうですが、CMは時代を映す鏡です。その時どきの世相、流行、社会現象、そして人間模様までをどこかに反映させています。 この冬、流されているCMの中から、注目作を選んでみました。
●中外製薬 「風で吹きこまれるいのち」篇
不思議なものを目にした時、人は瞬時にして過去の体験を振り返り、記憶のデータベースを検索し、類似した何かを探そうとする。このCMを見た人の多くもそうするはずだ。しかし、残念ながら結果は芳しくない。何物にも似ていないからだ。
組み上げられた無数のプラスチック・チューブが、まるで動物の骨格のように動き、砂浜を歩行する。しかも船の帆のような白い布が横に広がっている。そう、この“生きもの”の動力は風なのだ。動いては止まり、止まっては動く予測不能なテンポは、風の吹くままを体現したもの。まさに“風で吹きこまれるいのち”だ。
「新しい世界は、見たこともない創造から始まる。」というコピーにふさわしく、見る者のイマジネーションを強烈に刺激するこの作品。タイトルは「砂浜の生物」を意味する「ストランドビースト」で、作者はオランダの芸術家、テオ・ヤンセンである。風がやみ、一瞬立ち止まったビーストが見る夢は、果たして、未来か、それとも過去か。
●ペプシ 「桃太郎Episode.2」篇
ペプシネックスゼロのCM「桃太郎エピソード・ゼロ」篇は衝撃的だった。いきなり現れた「巨大な鬼の一族」。島の住民をおびやかす彼らの全身は赤黒く焼けただれ、ぶすぶすと煙を立ち上らせていた。なぜ侵略するのかも不明であり、その存在自体が実に怖かった。
立ち向かうのは小栗旬さんが演じる桃太郎だ。伝説にのっとり、犬、サル、キジなどの仲間を集めて鬼が島へと向かう。いずれの動物も人間の姿をしており、それぞれに得意技を持っている。
今回の「エピソード2」で描かれるのは、犬が背負っている過去だ。狼に育てられた人間の赤ん坊だった彼。だが、成長した時、母親狼は鬼に殺されてしまう。青年は母の形見を身に着け、自らを「犬」と名乗って復讐を誓った。
想像力をかき立てるストーリー。スタイリッシュな映像。ハリウッド並みの精緻なVFX。長編映画の一部を見ているような贅沢感が広がっていく。この冬も、「その先が見たくなる」CMの代表格だ。
●TOTO 「ネオレスト 菌の親子」篇
ネット社会を痛烈に批判した『ネット・バカ』の著者ニコラス・G・カー。その新作が『オートメーション・バカ』だ。飛行機から医療まで、社会のあらゆる部分が「自動化」された現在、利便性に慣れるあまり、それなしではいられない事態に陥っていないかと警告する。
カーの言い分も分かるが、こと温水洗浄トイレに関しては譲れない。悩める人々に福音をもたらした世紀の発明品だと思っている。1982年に登場した、戸川純さんの「おしりだって、洗ってほしい。」というCMも衝撃的だった。コピーは巨匠・仲畑貴志さんだ。
その後も進化を続け、新製品では見えない汚れや菌を分解・除菌し、その発生さえ抑制するという。これではトイレに生息する“菌の親子”、ビッグベンとリトルベンもたまったものではない。
除菌水の威力を見た息子菌(寺田心くん)が言う、「悲しくなるほど清潔だね」のせりふが泣けてくる。ごめんね、リトルベン。