あの大塚家具の「おわびセール」に1万人が殺到しているそうで・・・。
「お家騒動」は炎上商法だったのではないか、という噂も消えていません。
なんだかなあ、の感がありますね。
週刊新潮での書評は、高杉良さんの“モデルあり”の経済小説などを取り上げました。
高杉 良 『小説 創業社長死す』
角川書店 1728円
創業者で会長の父親。それを排除しようとしたのは社長である娘。実際に大手家具販売会社で展開された泥沼の経営権争いは、同族会社の持つ危うい側面を見せつけた。
経済小説の名手による新作の舞台は食品会社だ。平成元年、60歳の小林貢太郎は大手食品総合メーカー、東邦食品工業の創業社長として君臨していた。当面の課題はアメリカにおけるカップ麺「コバチャン」の製造・販売であり、その責任者として誰を送り込むかだった。それは次期社長人事とも密接に関係していたが、最終的に小林が最も信頼する専務の深井が赴くことになる。
4年後、深井はアメリカでの成果を携えて帰国。だが、社長ではなく会長のポストに就く。社長の椅子に座ったのは筒井だ。本来その器とは言えない人物だが、小林の妻の強い後押しがあった。社長選びという重要事項で、なぜ小林は妻の影響を受けるのか。そこには、長年にわたる“もう一つの家庭”の存在があった。
平成17年、相談役だった小林が、くも膜下出血で急逝する。これを機に深井会長と筒井社長の溝は深まり、やがて筒井の独断専行が始まる。深井をはじめ次々と邪魔者を排除し、経営の実権を握るのだ。しかし私欲が透けて見える言動によって、社内の活力は低下していく・・・。
優れた経済小説の面白さは、外部からはうかがい知れない企業や組織の実態をリアルに感じさせてくれる点にある。ましてや本書は明らかにモデル小説だ。カップ麺という商品をめぐってライバル関係にある東邦食品も大手の日華食品も、モデルの社名がすぐ思い浮かぶ。著者は実在の会社や人物たちを踏まえつつ、想像力を駆使してヒリヒリするような人間ドラマを展開していく。
創業社長の為すべきことのひとつが後継者の育成だ。自らが生んで育てた会社であっても永遠には携われない。本書は「会社は誰のものか」という問いも突きつけている。
春日太一 『役者は一日にしてならず』
小学館 1620円
平幹二朗、松方弘樹など16人の俳優が、自らの軌跡と演技について語るインタビュー集だ。「台本を読む前に役柄の周辺を調べます」という夏八木勲。「役は『作る』ものではなく『なる』もの」と蟹江敬三。常に強烈な存在感を示した名優2人も今は亡い。
新津きよみ 『彼女の遺言』
ハルキ文庫 691円
亡くなった親友から届いた遺品は、意外や梅酢だった。ただし、この梅酢には意識が過去へと戻れる不思議な力があった。タイムスリップによって過去の出来事に関与した場合、未来は変えられるのか。このタイムパラドックスに挑んだ、書き下ろし長編サスペンス。
鎌田 彗 『反国家のちから』
七つ森書館 1944円
現地を見て、まるで「侵略戦争」のようだと著者は言う。沖縄に対する安倍内閣のふるまいのことだ。原発再稼働も同様で、福島のあり様を踏まえた判断とはとても思えない。すべては経済優先の結果だ。新聞やテレビが報じない、この国の現状と病根を再認識できる。
(週刊新潮 2015.04.16号)