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書評した本: 柳澤健 『1974年のサマークリスマス』ほか

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「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。


70年代、伝説の深夜ラジオ 時代の空気が甦る

柳澤 健 
『1974年のサマークリスマス~林美雄とパックインミュージックの時代』
集英社 1728円

1974年、大学2年生だった。下宿の部屋にテレビはないが、ラジオはあった。深夜放送が好きで、特に野沢那智と白石冬美の「パックインミュージック」(TBS)は欠かしたことがない。放送は金曜の午前1時から3時まで。その後が林美雄の担当する第2部だった。

70年に始まった「林パック」は奇妙な番組だった。そもそも林美雄というパーソナリティが正体不明だったのだ。アナウンサーであることは知っていたが、テレビで顔を見たことはない。ラジオでも林パック以外で声を聞いたことがなかった。

内容はもっと不思議だ。音楽は扱うのだが、洋楽はあまりかからない。邦楽も歌謡曲の存在を忘れているようだったし、当時流行していた吉田拓郎やチューリップの曲に遭遇することもなかった。

その代わり、荒井由実という無名の女の子の曲がやたらと流れた。独特の声と歌詞。拓郎ともかぐや姫とも異なるその世界観が新鮮だった。「ひこうき雲」も「ベルベット・イースター」も、初めて聴いたのは林パックだ。石川セリの「八月の濡れた砂」や安田南の歌もこの番組で知った。

映画の話もよくしていた。やはり洋画にはほとんど触れない。邦画も黒澤明や小津安二郎ではなく、藤田敏八(としや)や神代(くましろ)辰巳や曽根中生の作品を語った。ゲストでは原田芳雄が常連だ。こうした偏愛こそが林の真骨頂であり、私たちリスナーの支持もそこにあった。

そして74年。突然、林パックは終了してしまう。実は翌年、水曜夜に復活するのだが、林にも内容にも“別モノ”感があり、私自身はその時点で距離を置いた。

今回、この本を読むことで、分かったことがたくさんある。林美雄とは何者だったのか。なぜ、あんな放送が可能だったのか。また、どうして消滅したのか。同時に、放送史とサブカルチャー史における林美雄の位置と意味も見えてきた。1974年、あなたはどこにいましたか?


桂 望実 『総選挙ホテル』 
角川書店 1662円

『県庁の星』で知られる著者の新作は、業績不振にあえぐ中堅ホテルが舞台だ。新社長として現れた社会心理学の教授が、いきなり従業員選挙を実施する。元の部署に残る者と去る者、そして新たな職場に戸惑う者。次々と繰り出される奇策はホテルをどこへ導くのか。


東京クリティカル連合:編・著 
『平成版 東京五大』 
垣内出版 1728円

神社、商店街、祭り、さらに親子丼や煮込みまで、様々なジャンルの「東京五大○○」を選んでいる。ただし、あくまでも独断と偏見が命。異論・反論ありのラインナップだ。五大ストリップ劇場を制覇するのも、五大霊園に額ずくのも一興。魅惑の都市探検の旅へ。


関川夏央 『人間晩年図巻 1990―94年』
岩波書店 1944円

かつて、『家族の昭和』で文芸表現を「歴史」として読み解こうとした著者。ならば本書は、人の晩年を通して「現代史」を記述する試みだ。何度か交錯した中上健次と永山則夫の人生。ハナ肇と仲間たちが生きた戦後芸能史。彼らが逝った90年代もまた甦ってくる。


辛酸なめ子 『辛酸なめ子の世界恋愛文學全集』
祥伝社 1620円

時代を超越した恐るべき処世術「竹取物語」。5話中4話が死刑で終わるダークな恋愛譚「好色五人女」。純粋な恋愛ができない作家の「蒲団」。辛い恋を快感に変える極意「はつ恋」。社会や人間を鮮やかに斬るコラムニストが、名作から禁断の教えを抽出する。


手束 仁 『プロ野球「黒歴史」読本』
イースト・プレス 972円

シーズン真っ盛りのプロ野球だが、今年は清原事件がどこか尾を引いている。本書に登場するのは、その清原をはじめとする75人だ。堀内や江川などの“悪役”選手もいれば、広岡や落合といった“クセ者”監督もいる。元ヒーローたちの栄光と転落の物語だ。


(週刊新潮 2016年7月21日号)



今週末、オープンキャンパスで「体験授業」、やります!

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今年も、こんな感じかな?

7月31日(日)と8月1日(月)、オープンキャンパスで新聞学科の「体験授業」を行います。

体験授業は、両日とも3回ずつの計6回。

私が担当するのは、31日(日)の1回目と2回目です。

同日の3回目と、8月1日は、同じ新聞学科の水島宏明先生が担当して下さいます。

新聞学科の「体験授業」は、高校生の皆さんに、テレビセンターのスタジオを使って行っている実習授業「テレビ制作」を、体験してもらおうという企画です。

おかげさまで、毎年、参加希望者が多く、すべて「定員制」をとっています。

各回とも、当日配布の「整理券」が必要なので、参加希望の皆さんは、以下の大学サイトで確認しておいてください。

オープンキャンパス情報(四谷キャンパス):
http://www.sophia.ac.jp/jpn/admissions/gakubu_kanren/oc


では、高校生の皆さん、今週末のオープンキャンパスで!

ギャラクシー賞と安倍政権

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先月、放送界の大きな賞のひとつで、優れたテレビ・ラジオ番組や放送文化に貢献した個人・団体を顕彰する、第53回「ギャラクシー賞」の発表があった。注目のテレビ部門大賞は、『報道ステーション』(テレビ朝日系)の2本の“特集”が受賞した。大賞を、ドキュメンタリーやドラマではなく、報道番組の特集が獲得するのは極めて珍しい。

1本目の特集は3月17日放送の『ノーベル賞経済学者が見た日本』だ。その“主役”は、経済学の世界的権威、米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授。政府会合の場で安倍首相に消費増税延期を進言したことが報じられた直後に、番組では教授への単独インタビューを放送したのだ。

しかもその内容は、日本国内の格差問題、法人税減税の効果(トリクルダウン)への疑問、さらに新たな税制改革の検討など、安倍政権の経済政策が抱える問題点の指摘や提言となっていた。ともすれば増税先送りにばかり目が向く状況のなかで、有効な判断材料となる専門家の知見を伝えたことの意義は大きい。

●ワイマール憲法と憲法改正

2本目は、翌18日の『独ワイマール憲法の“教訓”』である。1919年に制定されたドイツのワイマール憲法は、国民主権、生存権の保障、所有権の義務性、男女平等の普通選挙などを盛り込み、当時、世界で最も民主的と讃えられていた。しかし、その民主主義憲法の下で、民主的に選出されたはずのヒトラーが、独裁政権をつくり上げていったこともまた事実である。

この特集では、古舘伊知郎キャスター(当時)が現地に赴き、ワイマール憲法とヒトラー政権の関係を探っていた。背景には、安倍首相が目指す憲法改正がある。特に、大規模災害などへの対応という名目で、「緊急事態条項」を新設しようという動きだ。

番組のなかで、ワイマール憲法の研究者が自民党の憲法改正草案について語る場面が圧巻だった。草案に書かれた「緊急事態条項」について、ワイマール憲法の「国家緊急権」と重なると証言したのだ。

さらに、「内閣のひとりの人間に利用される危険性があり、とても問題です」と警告した。この「国家緊急権」を、いわば“悪用”することによってナチスが台頭していったことを踏まえると、こちらもまた、私たちにとって大いに参考となる専門家の知見だった。もちろん時代も状況も異なるが、痛恨の歴史から学べることは少なくない。

2本の特集はいずれも、そのテーマ設定、取材の密度、さらに問題点の整理と提示などにおいて高く評価できるものだった。4月にキャスターが交代した『報道ステーション』をはじめ、各局の報道番組にも、こうした積極的な“調査報道”が増えることを期待したい。



期待大の辛口ホームドラマ 「はじめまして、愛しています。」

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日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、ドラマ「はじめまして、愛しています。」について書きました。


テレビ朝日系「はじめまして、愛しています。」
期待大の辛口ホームドラマ
大ヒットドラマ「一つ屋根の下」(フジテレビ系)が終了してから、約20年が過ぎた。

柏木家の次男で「チイ兄ちゃん」こと雅也の福山雅治は人気音楽家&俳優となり、女優の吹石一恵と結婚した。四男・文也の山本耕史も大河ドラマの常連俳優へと成長し、妻は女優の堀北真希だ。

彼らの妹・小雪の酒井法子はプロサーファーと結婚したが、09年に覚せい剤取締法違反で逮捕。現在もなお前途多難だ。

そして、あの「あんちゃん」、達也はどうしているのかと思っていたら、この夏、帰ってきた。それが「はじめまして、愛しています。」だ。まあ、それくらい江口洋介が演じる信次は達也を彷彿とさせる。いつも元気で、無類のおしゃべり。そして世話好き。困っている人を見捨てておけない。

一方、妻の美奈(尾野真千子)は、母親の自殺やピアニストへの夢に破れたことで、やや鬱屈気味だ。そんな2人が、親から虐待を受けていた少年との特別養子縁組にトライしている。出会いを「運命」と感じた信次に引っ張られる形で進んでいるが、本当の難しさに直面するのはこれからだ。

脚本は、「家政婦のミタ」(日本テレビ系)の遊川和彦。親子とは、家族とは、という重いテーマだが、信次の明るさと美奈の視点が効いている。現実を踏まえたフィクションとして、期待できる辛口のホームドラマだ。

(日刊ゲンダイ 2016.07.27)

書評した本: 五木寛之 『玄冬の門』ほか

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「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。


『青春の門』を出て、最後の門に至る
五木寛之 『玄冬の門』
ベスト新書 848円

中国で古くから使われてきた人生の区分がある。青春、朱夏、白秋、玄冬の4つだ。玄冬はいわゆる高齢期、老年期にあたる。

五木寛之『青春の門』(講談社文庫)の第1部「筑豊篇」が刊行されたのは1970年のことだ。そして現在83歳の著者が『玄冬の門』を上梓した。

中身は高齢期や老年期を生きるヒントだ。ただし、趣味を広げるとか、コミュニティへの参加とか、ましてや死ぬまでトキメキといった話ではない。むしろ逆だ。素の自分と向き合い、いくつかの覚悟をもって生きようという提言である。

覚悟は4つ。人は本来、孤独である。頼りになる絆などない。人間は無限に生きられない。そして、国や社会が自分の面倒をみてくれるとは限らない。その上で著者がすすめるのは同居自立、再学問、妄想、趣味としての養生、楽しみとしての宗教などだ。

特に、家族に甘えようとせず、孤独を嫌がらないこと。むしろ孤独の中に楽しみを見出す。孤独の幸せ感を覚えようというアドバイスが印象に残る。できれば“玄冬の門”をくぐる以前から、精神面においても独りでいることのレッスンやトレーニングを積んでおくことが必要だという。
 
読後、著者の『大河の一滴』(幻冬舎文庫)を読み返したくなった。しかし、「一生という水滴の旅を終えて、やがては海に還る」は、あくまでも著者が思うストーリーだ。今は、それぞれが“自身の物語”を持つべき時代なのかもしれない。


松山 巌 『ちちんぷいぷい』
中央公論新社 2052円

現実と幻想の境目を彷徨う感覚か。不思議な味わいの掌編小説集だ。嘘か真実か、取材者に過去の殺人を告白する老女優。バーのマスターに向かって少年時代の奇妙な体験を語る、バブル期の企業家。都会の片隅で採集された、50人の独白が読む者の想像力を刺激する。


湯川 豊 『丸谷才一を読む』
朝日新聞出版 1404円

4年前、87歳で亡くなった丸谷才一。その作品は小説、評論、翻訳など多岐に亘る。しかも長編小説に限っても、同時代の文学とは「あまりにも異なる」と著者はいう。一体何が違い、それはどこから来るのか。小説と評論を“合わせ鏡”として複合的に捉えていく試みだ。


平石貴樹:編訳 『アメリカ短編ベスト10』
松柏社 1944円
ポー「ヴァルデマー氏の病状の真相」からブローディガン「東オレゴンの郵便局」まで、厳選された名短編が新訳で並ぶ。中でもメルヴィルの「バートルビー」は、アメリカ文学者にして作家でもある著者が、「最高峰でベスト・ワン」と呼ぶ逸品。味わうしかない。



渡辺京二 『さらば、政治よ―旅の仲間へ』
晶文社 1836円

時評、インタビュー、読書日記、講義の4章で構成されている。表題作は、政治が本来抱える「悪」から、生活世界の刹那化・非連続化までを論じて刺激的だ。またインタビューでは、男はどんな女と過ごせたかが基本だと語る。冷徹な目と自由な魂に触れる一冊。


横尾忠則 『横尾忠則 千夜一夜日記』
日本経済新聞出版社 1944円

「描く時間より絵を眺める時間の方が長い」と画家は言う。だが、日記は毎日書く。オノ・ヨーコがかけてくる早朝の電話のこと。淀川長治と2人で自撮りする夢。山田洋次監督と頻繁に会う蕎麦屋。何冊も読み進める松本清張の小説。その日常が表現そのものだ。

(週刊新潮 2016.07.28号)

【気まぐれ写真館】 HTB「イチオシ!」 2016.07.29

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国井アナ、ヒロさん、佐藤アナ



今週の「国井美佐アナウンサー」



人気者 on(オン)ちゃん

「縁日」のイベントでにぎわうHTBロビー

【気まぐれ写真館】 新聞学科OB 札幌マスコミ会 2016.07.29

”ゴジラ映画の傑作”と言いたい、「シン・ゴジラ」

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29日(金)、待ちかねた初日。

映画「シン・ゴジラ」を観てきました。

で、いきなりの結論(笑)。

これは、ゴジラ映画の傑作です。

子供時代の1960年代から50年間、ゴジラ映画を全部、映画館で、リアルタイムで観てきたことを踏まえ、自信をもって言えます。

思えば、平成版のいくつか、それにアメリカ製も、困ったもんなあ。

これは傑作です。

いやあ、面白かった!

何より、チャチくないし、ダサくない。


まず感心したのは、やはり映像ですね。

迫力と、リアルと、美しさの三位一体。

武蔵小杉にも、品川駅にも、確かにゴジラがいました(笑)。

こうした作品で、「庵野秀明×樋口信嗣」は、現在における最強コンビですが、その期待を裏切らない出来になっています。


次に、この作品が、ゴジラという怪獣に関して、”まっさら”なところから物語っていること。

庵野さんの脚本ですね。

過去のゴジラ映画とのつながりとか、かつて日本にやってきたことがあるとか、そういう設定は一切なし。あえて断絶させている。

「今、この国に、こういう生物が現れたらどうなるのか」という一点に集中して、物語が展開されているのだ。

あれこれ描こうと思えばできる中で、「日本政府VSゴジラ」に絞り込んでいる。

まさに、「現実VS虚構」です。

誰もがゴジラを初めて見る。

初めて街が破壊される。

初めて国民の命が脅かされる。

その時、日本政府の、誰が、何を、どう対応していくのか。

その間も、ゴジラは破壊を続けている。

その両方を、観客は見つめていく。


長谷川博己さんは、好きな役者さんだけど、「センが細いんじゃないかなあ」と心配していた。

でも、結果的には、なかなかの適役でした。

石原さとみさんは、英語スクールのCMに出ているのも伊達じゃないぞ、という語学力を発揮して熱演しています。

長谷川、石原と並ぶと、ちょっと「進撃の巨人」感が強かったけど、まあ、それはご愛嬌ということで(笑)。


まだまだ言いたいことはありますが、以上、取り急ぎの報告です。

映画館に足を運んで損はありません。

というか、映画館で観るべき1本です。



つい買ってしまった、「ゴジラ2016  限定クリアレッドバージョン」

【気まぐれ写真館】 HTB「イチオシ!モーニング」 2016.07.30

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野球解説の岩本さん、ファイターズガールの畠山さんと安念さん

スポーツ担当の五十幡アナウンサー

愛里さん、依田アナウンサー



ニュース担当の柳田アナウンサー

番組で試食した、月形町のジャンボ焼きとり




今週の「木村愛里さん」

【気まぐれ写真館】 今月の「千歳市・柳ばし」 2016.07.30

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おかーさん特製 ぶた肉とキュウリの炒め物定食
(メニューにはありません、悪しからず)

【気まぐれ写真館】 夏も新校舎建設中 2016.07.31

オープンキャンパスで「体験授業」 2016.07.31

「シミルボン」に、コラムとレビューを寄稿しました

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本のサイトである「シミルボン」に、コラムとレビューを寄稿しました。

よかったら、ご覧ください。


https://shimirubon.jp/

夏クールのドラマ ベテラン脚本家が健闘

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北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ベテラン脚本家による夏ドラマについて書きました。


夏クールのドラマ
ベテラン脚本家が活躍
夏クールのドラマが始まっている。恋愛物から学園物までさまざまな趣向が並んでいるが、嬉しいのは大石静、遊川和彦、井上由美子などベテラン脚本家の名前が目立つことだ。

中堅不動産会社の新宿営業所に、成績抜群の営業ウーマン・三軒家万智(北川景子)が異動してくる。不動産は高額商品であり、そう簡単に売れるものではない。しかし、万智は違う。何しろ「私に売れない家はない!」と豪語する自信家だ。北川がケレン味いっぱいにこのキメ台詞を言い放つたび、堂々のコメディエンヌぶりが笑えるのが「家売るオンナ」(日本テレビ系)である。

たとえば、駅から遠い坂の上の売れ残りマンション。相手は元々広い一軒家を探していた医師夫妻だ。万智は彼らの1人息子に注目する。忙しい両親に甘えることも出来ず、どこか寂しそうな少年だ。やがて万智の中にひらめくものがあり、結局、彼らはマンションを購入する。

この展開の中に、彼女がスゴ腕と言われる理由がある。その家族が抱えている、しかも本人たちさえ気づいていない問題点や課題を見抜くのだ。家は単なる住居ではなく、問題解決に寄与するツール(道具)となる。

つまり万智は家を売っているのではない。家を通じて“生き方”を提案しているのだ。これをユーモアあふれる仕事ドラマに仕立てた大石静の脚本に拍手だ。

大ヒットドラマ「ひとつ屋根の下」(フジテレビ系)が終了してから、約20年が過ぎた。あの「あんちゃん」こと達也はどうしているのかと思っていたら、この夏、帰ってきた。それが「はじめまして、愛しています。」(テレビ朝日系)だ。

それくらい江口洋介が演じる信次は達也を彷彿とさせる。本当は悩みもあるのだが、いつも明るく、うるさい位のおしゃべり。そして世話好き。困っている人を見捨てておけない。一方、妻の美奈(尾野真千子、好演)は、父親との確執やピアニストへの夢に破れたことなどから、ややうっ屈した女性だ。

そんな2人が、親から虐待を受けていた少年との特別養子縁組をすることになった。今は、出会いを「運命」と感じた信次に引っ張られる形で進んでいるが、本当の難しさに直面するのはこれからである。

脚本は、「家政婦のミタ」(日本テレビ系)の遊川和彦。親子とは、家族とはという重いテーマだが、くすっと笑える美奈の“こころの声”が効いている。現実を踏まえたフィクションであり、期待できる辛口ホームドラマだ。

(北海道新聞 2016.08.01)

“ベタ”な作りを楽しむ、日曜劇場「仰げば尊し」

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日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、TBS日曜劇場「仰げば尊し」について書きました。


TBS系 日曜劇場「仰げば尊し」
たまにはベタもいいじゃないか
TBS系の日曜劇場、今クールのタイトルは「仰げば尊し」だ。中高年には懐かしいこの曲も、今どきの小学校や中学校の卒業式では歌われなくなっている。「仰げば尊し」に続く歌詞が、「わが師の恩」であることを知らない若者も多いのだ。

ドラマの舞台は、荒れていることで知られる地方の高校。元サックス奏者の樋熊(寺尾聰)が、校長(石坂浩二)に頼まれて音楽の非常勤講師としてやってくる。同時に吹奏楽部の顧問となった樋熊は、不良グループも巻き込みながら、コンクールに出場すべく指導を開始する。

正直言って、タイトルもそうだが、中身もベタなドラマだ。「たばこと酒と麻雀で高校生活を終わっていいのか!」と説教する樋熊もベタなら、もともとバンドをやっていた不良たちが、「自分に嘘はつきたくない」などと言って吹奏楽部に参加してくる展開もベタ。このまま最終回あたりで、弱小吹奏楽部に“奇跡”が起きたらベタ大賞だ。

しかし、たまにはベタもいいじゃないかと思う。樋熊みたいに愚直に生徒と向き合う教師がいて欲しいし、何かに熱くなる高校生の姿も見てみたい。制作陣もテレたりせず、実話だというこの素材に正面からぶつかっていることに好感がもてる。

大ヒット曲「ルビーの指環」から35年。音楽家・寺尾聰の片りんを久しぶりに見られるのも一興だ。

(日刊ゲンダイ 2016.08.03)

書評した本: 是枝裕和 『映画を撮りながら考えたこと』ほか

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暑中、お見舞い申し上げます!

「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。


是枝裕和 『映画を撮りながら考えたこと』
ミシマ社 2592円

『幻の光』で監督デビューして21年。最新作『海よりもまだ深く』は12作目にあたる。本書は、テレビディレクター時代から現在までの取り組みを自ら総括する一冊。時に「ドキュメンタリー的」と評される作品が生まれる背景も興味深い、独自の創作・表現論だ。


飯沼素子、濱本光治
『花咲くベースボール~女子硬式野球物語』
幻冬舎 1404円

日本初の女子硬式野球大会の開催は1995年。実現させたのも、その後の発展に尽力したのも四津浩平である。本書は女子硬式野球に私財と命を賭けた男の物語だ。同時に、四津に背中を押されながら野球に打ち込んだ、6校の監督と生徒たちの熱い記録でもある。

(週刊新潮 2016.08.04号)

【気まぐれ写真館】 夏休みのキャンパス 2016.08.05

『遠くへ行きたい』と永六輔さんの旅

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去る7月7日、永六輔さんが亡くなった。83歳だった。1933(昭和8)年生まれの永さんは、草創期からテレビに携わり、放送作家、作詞家、タレント、また作家としても活躍してきた“異能の人”だ。

そんな永さんに対するイメージは、多分、世代によって違うと思う。「ラジオを聴いていた」「NHKのバラエティで見た」という中高年もいれば、「知らないよ」という若者もいるだろう。

私自身は、中学生だった60年代後半に、ラジオの深夜放送『パックインミュージック』(TBS)で永さんを知った。もちろんその頃は、後に実物の永さんにお目にかかることなど思いもしなかった。

80年代のはじめ、20代半ばの私は、番組制作会社「テレビマンユニオン」に参加した。新米のアシスタント・ディレクターとして修業の日々を過ごした番組が、『遠くへ行きたい』だった。永さんが、当時は赤坂一ツ木通りにあったテレビマンユニオンのオフィスに立ち寄った際、ご挨拶させていただいたのが初対面だ。

やがて私も、『遠くへ行きたい』のディレクターを務めるようになった。ディレクターは一人で、事前取材(ロケハン)のために現地を訪れるのだが、納得のいくネタが見つからず、途方に暮れることがある。

そんな時、励まされたのが、「知らない横丁の角を曲がれば、もう旅です」という永さんの言葉だ。旅番組の作り手ではなく、ただの旅人の気持ちで町を歩き直してみると、不思議なくらい魅力的な人やモノに遭遇することができた。

旅人をカメラが追った『遠くへ行きたい』

「萩元さん、ひとつ仕事をお願いできますか?」・・・テレビマンユニオンの創立メンバーだった萩元晴彦さんに、そんなふうに声をかけてきたのは読売テレビ東京支社長(当時)の中野曠三さんだ。場所は銀座のバー。70年2月のテレビマンユニオン結成から、まだ間もないころの話である。

その“お仕事”とは、当時、「ディスカバー・ジャパン」というキャンペーンを展開しようとしていた国鉄(現JR)をスポンサーにした、新しい旅の番組だった。中野さんは、萩元さんの飲み友達だったが、『巨人の星』『細腕繁盛記』などを手がけた辣腕営業マンだ。「お話を承ります」と言って、ノートを拡げて身構えた萩元さん。それが、現在も放送中の『遠くへ行きたい』が生まれた瞬間だった。

萩元プロデューサーは、この番組を、名所旧跡と名物を見せるような“旅行番組”にはしなかった。“旅のドキュメンタリー”としたのだ。萩元さんと共にテレビマンユニオンを興したメンバーで、初期の『遠くへ行きたい』を演出した今野勉さんによれば、それは「移動する旅人を撮ることであり、旅人と旅先で出会った人との会話を撮(録)る」番組だった。まだ小型ビデオカメラがない時代で、ロケは16ミリのフィルムカメラで行われた。

放送開始当初、この番組のタイトルは『六輔さすらいの旅 遠くへ行きたい』だった。スタートからの半年間、カメラは旅をする永さんをひたすら追い続けた。ドキュメンタリーにおいて、ドラマのような“迎え撃ち”の映像などあり得なかった時代だ。カメラは常に永さんの背後からついてきた。

その後、永さんは番組を抜けることになるが、五木寛之さん、野坂昭如さんなどの作家や文化人が“旅する人”として続々と登場。予定調和とはほど遠い、異色のドキュメンタリーとして評判になった。やがて、渡辺文雄さん、藤田弓子さんといった旅巧者のレギュラー陣も視聴者の間に浸透し、現在まで46年も続くことになる長寿番組の基礎が固まっていったのだ。

永さんからの「返信」

東日本大震災があった2011年の秋に放送されたのが、『ヒューマンドキュメンタリー 永六輔 戦いの夏』(NHK)だ。制作は、テレビマンユニオン。

この時、78歳の永さんはパーキンソン病と前立腺がんを抱えていた。TBSラジオの『誰かとどこかで』を私もよく聴いていたが、ある時期、永さんの話を聴き取ることが困難だった。番組では、そんな永さんがラジオのマイクの前にすわり、京都のイベントをリードし、東北の被災地へと足を運んでいた。その姿から目が離せなかった。

信州在住の高校生だった頃、永さんに手紙を出したことがある。書いた内容は覚えていない。ただ、永さんから返信が来たことに驚いた。葉書に筆文字で、「まるも(松本に現在もある喫茶店)のことなど懐かしい」とひと言。後から、あれほど忙しい永さんが、送られてきた手紙にはすべて返事を書くことを知って、また驚いた。

当時多くのリスナーにとって、ラジオは基本的に一方通行のコミュニケーションだった。しかし、電波の向こう側から一枚の葉書が届いたことで、それはリアルにして忘れられない“双方向”となったのだ。

『永六輔 戦いの夏』を見ながら思った。病いと戦いながらの京都行きも、被災地めぐりも、永さんから、これまで接してきた人たちへの「返信」ではないのか。自らそれを届けて回っているのではないか。そして、テレビには出ないと公言していた永さんが、カメラにこれだけ身をゆだねたのもまた、テレビ草創期からの“つながり”に対する、感謝を込めた返信ではないか。そんな気がした。

遺された「言葉」

かつて大ベストセラーとなった、永さんの著作『大往生』(岩波新書)。自らの死の22年も前に、61歳でこんなタイトルの本を上梓したのが、いかにも永さんらしい。

しかし、私にとって最も大切な永さんの本といえば、1972年に文藝春秋から刊行されたエッセイ集『遠くへ行きたい―下町からの出発』(のちに文春文庫)である。自身が生まれ育った浅草や、旅暮しの中で感じたあれこれを書き綴っており、旅人・永六輔の原点ともいえる一冊だ。

軸になっているのは、雑誌『暮しの手帖』での連載だ。現在放送中のNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』で唐沢寿明さんが演じている花山伊佐次のモデル、“伝説の編集者”花森安治が編集長を務めていた。

当時39歳の永さんにとって、『暮しの手帖』からの、いや花森安治からの執筆依頼は目標の一つだった。しかし、実際に始まってみれば、「(花森安治に)何度も書き直しをさせられ、やっと受けとってくれたかと思うと、受けとることと載せることは違うのだということを教えられた」という。もの書きとしての永さんは、花森安治に鍛えられたのだ。

この本で、「僕の旅はやっぱり、我家に帰ってくる旅なのである」と書いていた永さん。今ごろは、14年前に他界した、妻の昌子さんとご一緒だろう。そう、永さんは長い旅を終えて、ようやく我家に帰ったのである。

【気まぐれ写真館】 猛暑の戦後71年8月6日 合掌

“甲子園の季節”に読みたい高校野球小説

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8月は甲子園の季節。

いや、正確には、全国高校野球選手権大会の季節だ。

今年は、母校である松本深志高校が、長野の県大会でベスト8まで勝ち進んで、びっくりした。私が在学していた頃は、いつも1回戦で敗退していたのだ。

準々決勝という文字が新鮮だったし、ちょっとだけ、いい夢を見させてもらった。ありがとう、後輩たち。

そういえば、「野球小説」は結構な数が存在するのだが、「高校野球小説」って、すぐに思い浮かばないような気がする。

あさのあつこさんの『バッテリー』(角川文庫)に登場するのは中学生で、『ラスト・イニング』(同)が確か高校生だったと思う。

また、これまでに読んだ“甲子園モノ”では、小路幸也『スタンダップダブル! 甲子園ステージ』(角川春樹事務所)が面白かった。

それ以外だと、堂場瞬一『大延長』(実業之日本社)である。これは高校野球小説の傑作だ。

監督が言う。「この試合は俺のものでも、学校のものでもない。お前たちのものだ」と。夏の甲子園、しかも決勝戦が「延長引き分け再試合」となった。戦うのは初出場の新潟海浜と、連続出場の強豪・恒正学園だ。

因縁の一つは、海浜の監督である羽場と恒正の監督・白井が、大学時代のバッテリーだったこと。卒業後、白井はプロに進み、羽場は別の道を歩んだ。その二人が監督として甲子園で向き合っている。

さらに、海浜のエース・牛木と主将の春名、そして恒正の強打者・久保の3人は、リトルリーグでチームメイトだった。それぞれの過去と現在が酷暑の野球場で交錯する。

故障した膝が悪化した海浜の牛木は、再試合での登板が困難となる。春名は県大会の最中に事故で手首をケガしていた。

一方、恒正も主力選手の喫煙が発覚。揺れる両チームだが、運命の一戦は容赦なく開始される。選手たちの渾身のプレー。監督たちの駆け引き。

実況中継の解説を行うのは白井と羽場の恩師である滝本だ。重病を抱える彼もまた、この試合に自身を賭けていた。

臨場感溢れる高校野球小説にして、グラウンドを舞台とした一級のエンターテインメント小説。8月、甲子園の季節にふさわしい一冊だ。
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