「3年A組―今から皆さんは、人質です―」
匿名という名の凶器
幕を閉じた今期のドラマの中で、最も強い印象を残したのが、菅田将暉主演「3年A組―今から皆さんは、人質です―」(日本テレビ系)だ。
男が突然、高校に立てこもる。武器は爆弾。人質は3年A組の生徒全員。しかも犯人は担任教師の柊一颯(ひいらぎ いぶき、菅田)だ。
事件の背後には水泳の五輪代表候補だった女子生徒、景山澪奈(上白石萌歌)の自殺があった。彼女はドーピング疑惑で騒がれ、周囲から陰湿ないじめを受けていたのだ。
柊は茅野さくら(永野芽郁)など生徒たちに、「なぜ澪奈は死んでしまったのか、明らかにしろ」と迫る。
やがて澪奈の水着を切り刻んだり、自宅に投石したりしたのが宇佐美香帆(川栄李奈)であることが判明。有名人の澪奈を友人にしたかった香帆は、澪奈がさくらと仲良くなったことを恨んだのだ。
この時、柊は香帆に言う。「自分が同じことをされたらどんな気持ちになるか、想像してみろ」と。
実は「想像力」こそ、このドラマのキーワードだ。物語の中では、これでもかというほどネットやSNSの“負の威力”が描かれていた。
澪奈を追いこんだのも特定の個人ではなく、匿名による執拗なネット上の中傷とフェイク動画だった。他者の心の痛みを想像できるか。それが分かれ道だ。
A組の生徒たちもスマホ無しではパニックになるほど、もはやこの道具は日常化している。
確かに便利で使い始めたらやめられない。しかし、この手のひらの中のパソコンは、使い方によっては自身の思考を停止させてしまう。また同時に他者の人生を破壊することさえ可能だ。このドラマはこの凶器の危うさを徹底的に暴いてみせた。
もう一つ、物語を支えていたのが柊の言葉だ。「自分の頭で考えてみろ!」、さらに「感情にまかせたあやまちが許される年齢じゃない。言葉、行動に責任持てよ!」。病魔に侵された柊が、命がけで繰り出す言葉の数々がこのドラマの核だ。
単なる立てこもり事件と思わせておいて、徐々にドラマの意図を明かしていった脚本は、「怪盗山猫」(日本テレビ系)や「仮面ライダービルド」(テレビ朝日系)などの武藤将吾。迫真の演技の菅田と共に、このドラマを成功へと導いた。
(しんぶん赤旗「波動」 2019.03.25)