「土屋太鳳」も驚きの「フジ」記念ドラマでミス
字幕が遅れ続け…
松本清張の『砂の器』は、言わずと知れた不朽の名作である。フジテレビは開局60周年記念の特別企画でこの作品を取り上げたが、大きな反響を呼んだのは、字幕。最初から最後まで、字幕が数秒遅れていたのだ。
〈字幕のズレのせいで砂の器の内容がほとんど頭に入ってこない〉
〈母が難聴なので字幕遅れはとても困る。早くなんとかして、フジテレビ。なんか全く楽しめない〉
3月28日の夜、SNSにはこんな怒りが溢れていた。実際に見ていた女性も憤る。
「とても好きな作品だし、原作や映画、これまでのドラマと、セリフがどう変わっているか、人名や地名も確認したいから字幕を出していたんです。そのうち直ると思って最後までそのまま見ちゃいました。正直、“なにが特別企画だ、ふざけるな”と思っています」
ドラマの内容もさることながら、とんだ見どころを作ったものである。スポーツ紙の芸能担当記者の話。
「ふつう、放送の1週間前には編集作業が終わった“絵完パケ”が各社に配られるのですが、今回はありませんでした。撮影が終わったのがオンエアの1週間ほど前だったそうです。それからわずか数日で編集や音入れなどを行わねばならず、字幕まで手が回らなかった、と。それもこれも出演者の調整に手間取り、撮影開始が遅れたのが原因だとか」
60周年記念なのに、“突貫工事”だったわけである。
低迷続きを象徴
ここでいったん、原作に触れておく。『砂の器』は、ある殺人事件をめぐって刑事が東奔西走する姿を描く。ハンセン氏病を患った父親と、その息子である天才作曲家の物語でもある。1974年に丹波哲郎と加藤剛の主演で映画化され、ドラマ化は今回が7作目だ。
「名作を、安直に借りてきた感じが否めないのです」
と、メディア文化論を専門とする上智大学の碓井広義教授。
「今作は、ハンセン氏病患者への差別を犯罪加害者家族へのそれに置き換えています。が、映像では差別がまったく描けておらず、作曲家が背負った苦悩もまるで伝わってきませんでした。字幕の件は不手際以外の何物でもない。そんな未完成のままの作品を流してしまうとは、低迷続きのフジテレビを象徴する『砂の器』だったといえるでしょう」
まさに、貧すれば鈍するといったところだ。ちなみに、字幕の事故にはこんな例も。掲載写真の〈おいしかったです〉は、東山紀之演じる刑事が、土屋太鳳演じる重要人物に自己紹介する場面。東山の顔に字幕が被り、土屋もびっくりである。別の食事シーンでは、〈自分、朝から腹を下しておりまして。すいません〉との字幕も流れた。こんな作品となった経緯をフジテレビの企業広報室に訊ねると、
「制作の都合により、生で字幕を付けることになったため字幕が音声より遅れて表示されました。字幕放送でご覧になっていた視聴者の皆さまには大変ご迷惑をおかけしました」
との回答のみ。視聴者からの電話がつながらないこともあったとか。しかし視聴率は11%超。成功と評される15%には届かなかったが、字幕という見どころで命拾いしたのかもしれない。
(週刊新潮 2019年4月11日号)