貴重な証言で考える戦争の悲劇
三上智恵『証言 沖縄スパイ戦史』
集英社新書 1,870円
2018年、『沖縄スパイ戦史』と題するドキュメンタリー映画が公開された。描かれていたのは、沖縄戦の終結後もゲリラ戦を続けた、少年兵たちの「護郷隊(ごきょうたい)」のこと。その指揮をしていたのが、大本営から送り込まれた陸軍中野学校出身の青年将校だったことだ。
また波照間島から西表島へと移住を強いられた多数の住民が、マラリアで死亡していた。しかも移住は戦争から逃れるための疎開ではなかったのだ。映画は知られざる沖縄の史実を淡々と映し出す秀作だった。
この作品を大矢英代と共同監督したのが三上智恵だ。以前は琉球朝日放送のキャスターとして戦争番組を担当していたが、6年前にフリーの映画監督となる。これまでに、『標的の村』『標的の島 風(かじ)かたか』などを手掛けてきた。
今回、三上が著した『証言 沖縄スパイ戦史』は、単なる映像の活字化ではない。約750頁の分厚い本には、映画では割愛せざるを得なかった多くの証言が収録されている。夜間に敵の陣地に潜入し、食料庫や弾薬庫を爆破するよう命じられた少年ゲリラ兵の実態。スパイ掃討という名目で行われた虐殺。そして住民同士の軋轢。時には、加害者と被害者の立場が逆転するような悲劇も起きた。
貴重な証言の数々から見えてくるのは、軍隊が来てしまったら住民はどうなるかであり、軍国主義に飲み込まれたらどう行動出来るか出来ないかである。新たな戦前かもしれない今こそ、読まれるべき一冊だ。
(週刊新潮 2020年3月19日号)