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Channel: 碓井広義ブログ
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なるほど、テレビは“クイズ化”していたのだ

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放送批評懇談会が発行する放送専門誌『GALAC(ぎゃらく)』。

発売中の11月号に、『クイズ化するテレビ』の書評を寄稿しています。


『クイズ化するテレビ』(青弓社ライブラリー)
黄菊英(ファン・クギョン)、長谷正人、太田省一:著
表題作は黄の修士論文が元になっている。研究のきっかけは外国人らしい素朴な好奇心だ。

日本に留学し、テレビを見ると緊張した。画面からの質問に一生懸命答えようとしたからだ。クイズ番組に限らず、バラエティーもニュースも、黄には質問の嵐に見えた。日本のテレビが「無数の質問とクエスチョンマークであふれている」ことを発見したのだ。

黄はまずクイズを3つの視点で分析する。一つはクイズの「啓蒙」。仮想の教室を設定しての教育的コミュニケ―ションだ。次は「娯楽」で、「時間」をコントロールする演出が特徴だ。そして最後が「見せ物化」である。

黄はさらに、テレビの中にクイズと認識されない形でクイズが偏在することを確かめる。特に答えを「秘密化」して視聴者の興味を喚起する手法は、ニュースからバラエティーまで広く浸透していた。

こうした現象を、黄は「テレビのクイズ化」と呼ぶ。テレビの優先順位が低下しているこの時代、「クイズ性」は生き残るための現実的措置でもある。

しかしテレビは、「クイズ性」を用いて媒体として何かを伝えるよりも、「媒体としてのテレビそのもの」をアピールしようとしていると黄は言う。「クイズ性」の誤用と乱用だ。

本書には太田の『クイズ番組とテレビにとって「正解」とは何か』と、長谷の『テレビの文化人類学』も収められている。どちらも補論や解題の枠を超えた、読み応えのあるものであり、中でも長谷が指摘する「何もかも儀礼化してしまうテレビ」という分析は刺激的だ。

先行研究としては、石田佐恵子・小川博司編『クイズ文化の社会学』(世界思想社、03年)が知られている。黄たちの論考は、同書刊行から現在までの10余年を埋める、大きな成果だと言っていい。

(GALAC 2014年11月号)



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